
優良賞
一般財団法人文化教育学術振興財団
伝統文化で育てる、平時でも非常時でも活躍する“人”
レジリエンス力向上へ向けたそろばんの普及と播州地区の地域活性化
災害時ほど、集中力や情報処理能力などが求められるときはない。普段からその能力を身に付けておくことはレジリエンス
の土台となる。“人づくり” の面で強靱化への貢献を目指す(一財)文化教育学術振興財団の取り組みを紹介しよう。
社会で求められるのは
学力よりも根本的な能力
経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」をご存じだろうか? 「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と12の能力要素で構成され、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」とされている。
「社会人基礎力」で求められる能力は、必ずしも学力だけが影響するわけではない。世界的に見て、日本の算数・数学や理科の習得度が高い水準を維持しているが、「社会人基礎力」が要求しているのは、学力の前提となる「集中力」や「発想力」「記憶力」「洞 察力」「情報処理能力」といった、より根本的な能力だ。
日々目まぐるしく変化する企業活動では、学校のテストのように定まった答えがあることはほとんどない。そもそも答えにたどり着くための“問い(課題)”から自分で探し出さなければいけないのが当たり前であり、そのための根源的な力を求められているのだ。
社会人基礎力

出典:「人生100 年時代の社会人基礎力 説明資料」 経済産業省
社会人基礎力を構成する能力
3つの能力
●前に踏み出す力 ●考え抜く力 ●チームで働く力
12の能力要素
●主体性 ●働きかけ力 ●実行力 ●課題発見力 ●計画力 ●創造力 ●発信力 ●聴力 ●柔軟性 ●情況把握力 ●規律性 ●ストレスコントロール力
日本古来のそろばんで高める
一人一人のレジリエンス向上
社会に出て役立つ能力は、当然ながら、万が一の災害時にはさらに重要性が増す。「社会人基礎力」やその根本となる能力は、レジリエンスを高める上で必須の能力でもあるのだ。
では、どうすれば、レジリエンス向上に大切な能力を引き出すことができるのだろう? (一財)文化教育学術振興財団(以下、振興財団)が着目したのが、古くから伝わるそろばんだ。そろばんは室町時代末期に中国から伝来
し、1590年代に全国に普及するようになった。そろばんは計算力や暗算力だけでなく、集中力や記憶力、論理的思考力、情報処理能力、問題解決力など、さまざまな能力を伸ばすことができ、大人はもちろん児童や幼児の基礎教育にも貢献してきた。
そろばんで培われる能力は、前述の「社会人基礎力」、ひいてはレジリエンス向上に求められる能力にそのまま当てはめられる。室町時代から親しまれてきた伝統工業技術であり、文化でもあるそろばんでレジリエンス力を高めるのが、振興財団の目標なのだ。
振興財団は、そろばん生産地の一つである兵庫県小野市の「播州そろばん」の技術継承・産業継続を柱に、地域活性化を目指す活動を展開。活動の拠点となる「そろばん工房館」の建設に向け、計画を精査するとともに、支援体制の構築を進めている。
振興財団の理事長を務める前野 茂雄氏は、「そろばんが私たち一人一人のレジリエンス力向上に役立つことは、あまり知られていません。振興財団の活動を通じて、日本で古くから培われてきた工業技術であり文化でもあるそろばんの良さをより多くの人に知っていただくために、『そろばん工房館』の建設に取り組んでまいります」と、活動の趣旨を語る。
そろばんを通じて守る
地域の 伝統と産業
そろばんの生産地は兵庫県小野市のほかに島根県奥出雲町がある。前者は「播州そろばん」、後者は「雲州そろばん」と呼ばれ、長く日本のそろばん産業を支えてきた。しかし、計算機器が普及した現代において、そろばん製造だけで経営を維持することは非常に困難だ。レジリエンス向上につながる日本の伝統文化を継続していくには、そろばんを基軸にした新たな商品や観光資源を開発することが不可欠であり、そのためには行政や企業を含めた支援体制が必要だ。
「計画中の『そろばん工房館』を通じて、今までにない知育玩具や工芸品の研究開発を行います。また、そろばんの工場見学や体験会、即時販売会などを行い、そろばん産業を通じた観光開発と地域の活性化を図る予定です」
前野理事長は、「そろばん工房館」の構想をこのように語る。「必要なのは、事業としての持続性・永続性を担保できるコンセプトと収支計画・資金計画。乗り越えるべき課題はまだまだありますが、そろばん産業の活路を切り開く拠点づくりに邁進していきます」と、実現に向けた意気込みを語っている。

ベビそろ

組立カラーそろばん

理事長 前野 茂雄
そろばんは、計算力を含めた能力の発達や自信、忍耐力などを含む人間性の向上に役立つもの。幼いときから使えば、それだけレジリエンス力をはじめとした能力を高めることにもつながります。(一財)文化教育学術振興財団では、これからもそろばんを通じて文化と地域の産業を守り、レジリエンス向上に貢献する取り組みを続けてまいります。
一般財団法人文化教育学術振興財団
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